研究・開発事例
クリーム剤の角層溶解効果の評価方法を確立
研究の背景
おできの病態イメージ
おできなどは、雑菌が毛穴に感染することで膿んだ状態になります。この
つらい痛みから解放するため、膿などの毛穴内容物を早く排出することを考え、毛穴をふさいでいる角層を溶解することに着目しました。
研究の概要
角層溶解の効果
クリーム剤における角層溶解効果の評価
今後の展望
痛くて困っているおできなど、膿などが毛穴に詰まるような疾患に有効なクリーム剤を開発するため、この方法を役立てていきます。
おできの治療イメージ
角層溶解剤により、膿などの毛包内容物が減少することで痛みが収まる
- 痛いおでき(症状)
- 角層溶解(の評価)(方法)
- 膿を出す(目的とする作用)
- ジフェンヒドラミンサリチル酸塩(成分)
ユーカリ油塗布による皮ふアレルギー抑制効果を確認
研究の背景
アレルギー症状のイメージ
ユーカリ油は、古くから殺菌作用や抗炎症作用、鎮痛・鎮静作用があるとされ、医薬品に用いられてきました。また、臨床研究では皮ふのアレルギー症状を緩和することが報告されています。
成分としてはよく知られたユーカリ油ですが、詳細な作用メカニズムは、未だ不明な点があります。そこで、かゆみ止め薬を多く販売する会社として、かゆみ・炎症原因物質を蓄えているマスト細胞に着目し、ユーカリ油のマスト細胞への直接的な作用の可能性について検討しました。
研究の概要
ユーカリ油の効果の確認
ユーカリ油塗布による皮ふアレルギー抑制効果の確認
ユーカリ油がかゆみ・炎症原因物質の放出を抑える仕組みの解明
ユーカリ油がマスト細胞の活性化を抑えることで、かゆみ・炎症の原因となる物質の放出を抑えることを確認しました。
ユーカリ油がマスト細胞からかゆみ・炎症原因物質の放出を抑える動画
※富山県薬事総合研究開発センター共焦点レーザー顕微鏡にて撮影
本研究により、ユーカリ油はマスト細胞からのかゆみ・炎症原因物質の放出を抑えることで、アレルギー反応を抑えることを明らかにしました。また、直接的にマスト細胞の活性化を抑えていることも発見しました。このメカニズムの解明は世界初となります。
今後の展望
アレルゲンが皮ふに触れると、かゆみや腫れ、赤みなどのアレルギー症状が起こる体質の人がいます。かゆみが広がり長引く症状で、深刻度の高い皮ふトラブルのため、症状が広がらないような治療薬が求められています。私たちは、ユーカリ油の効果に期待し、有用な治療薬の開発を目指して研究を続けていきます。
- ユーカリ油(成分)
- 皮ふアレルギー症状(広がるかゆみ、ぶつぶつ・ボコボコ)(症状)
- かゆみ・炎症原因物質の放出抑制(目的とする作用)
- ハウスダストなどのアレルゲン(原因)
鎮痒剤クロタミトンの標的分子の同定および作用メカニズムの解明
研究の背景
クロタミトンは、長い間かゆみ止めとして使われている成分ですが、かゆみを抑える詳細な作用機序は不明でした。一方で、皮膚や神経で温度のセンサーとして働く TRPチャネル※というタンパク質が、かゆみに関わることが分かってきました。
そこで本研究では、クロタミトンがTRPチャネルに作用している可能性に着目し、クロタミトンの止痒メカニズムの解明を行いました。
温度感受性TRPチャネルは、熱い・冷たいという温度をキャッチするセンサーとして発見されたタンパク質で、主に皮膚や神経に発現しています。異なる温度で活性化されて熱い冷たいと感じるだけではなく、一部のTRPチャネルが痛みやかゆみにも関わっていることが解明されています。
TRPチャネルと感覚
温度やかゆみなど私たちの感覚は、受けた刺激が電気信号に変換され、その電気信号が神経細胞を伝わって脳に届くことで起こります。
- ①外部から刺激を受けると(受容)
- ②TRPチャネルが開き、プラスのイオンが入り(電気信号への変換)
- ③電気信号が流れ(伝達)
- ④脳に温度やかゆみなどの情報が伝わる(感覚認知)
TRPチャネルの一つであるTRPV1はトウガラシの辛味成分であるカプサイシンの受容体として発見されました。トウガラシを食べて口の中がヒリヒリする「辛い」感覚が「熱い」に良く似た感覚であることに注目し、研究が進められました。その結果、TPRV1はカプサイシンが存在しなくても「熱」にも反応することが発見されたのです。この発見は私たちの身体が温度を感じる仕組みの解明に繋がっています。「辛い」と「熱い」は英語ではどちらも“Hot”と表現されますが、実際に同じメカニズムで感知されていたのです!
また、TRPM8というTRPチャネルはミントの成分であるメントールで活性化され「冷たさ」を伝えています。「ムヒシリーズ」を塗った時に感じるスーっとする清涼感もこのTRPM8によるものだと考えられています。
研究の概要
クロタミトンのTRPチャネルに対する働き
皮膚や神経にあるTRPチャネルのうち、TRPA1、TRPM8、TRPV1,TRPV2、TRPV3、TRPV4の6つのチャネルに対するクロタミトンの作用を検討しました。
これらの検討のうち、TRPV4活性化剤で流れた電流は、クロタミトンを加えると大きく抑制されました。クロタミトンがTRPV4チャネルの活性化を阻害したことで、電流の流れが小さくなったと考えられます。
TRPV4のかゆみへの関与とクロタミトンの作用
まとめ
クロタミトンは、かゆみに関わるセンサーとして知られているTRPV4の活性化を抑制することにより、かゆみを止めていると考えられます。
今後の展望
このような作用メカニズムを解明することは、より効果的なかゆみ止め薬を作っていく上で重要な情報であると考えられます。
今回紹介した研究内容は、TRPチャネル研究の第一人者である富永真琴先生※との共同研究により解明したものです。富永先生が著者の一人である論文(The capsaicin receptor: a heat-activated ion channel in the pain pathway. Nature 1997., The cloned capsaicin receptor integrates multiple pain-producing stimuli. Neuron 1998.)は、2021年ノーベル医学・生理学賞「温度と触覚の受容体の発見」(David Julius(デイヴィット・ジュリアス)氏)の関連論文(key publications)に選ばれています。
- ※富永真琴先生の所属(2022年)
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
生命創成探究センター 温度生物学研究グループ
生理学研究所 生体機能調節研究領域 細胞生理研究部門
- クロタミトン(成分)
- かゆみ(症状)
- TRPV4(作用点)
皮ふにおけるタンニン酸のプロテクト効果
研究の背景
タンニン酸は五倍子※などから抽出・精製された成分で、たんぱく質や金属イオンなどと結合し、不溶性化合物を形成(凝集)することで不活化作用を示します。
医薬品では下痢止め薬に配合され、粘膜の保護(プロテクト)作用により下痢の症状を緩和すると考えられています。ただしタンニン酸の作用については粘膜組織を用いた報告が多く、皮ふのバリア機能における報告は少ないです。
そこで、タンニン酸の皮ふでのプロテクト効果を明らかにするため、皮ふのどの部位で作用を示しているか研究を行い、プロテクト効果の可視化に挑戦しました。
- ※五倍子:ウルシ科植物の葉に昆虫が刺傷を作ることでできた虫こぶを乾燥させたもの
タンニン酸
タンニン酸は、多くの植物に含まれるポリフェノール化合物であるタンニンの一種です。タンニン酸は赤ワイン、柿渋、茶などに含まれ、これらを飲食した時に感じる渋みは、舌粘膜の収れん(引き締まり)によって起こる特有の感覚です。また、古くは生皮から皮革への皮なめし剤としても利用され、なめし=tanningが語源とも言われています。
研究の概要
タンニン酸の皮ふにおけるプロテクト効果の可視化
テープストリッピング処理(TS)により皮ふバリアを破壊し、蛍光色素を滴下しました。蛍光色素の浸透度合いにより、タンニン酸が皮ふのどの部位で作用してプロテクト効果を示すのか確認しました。
富山県薬事総合研究開発センター
共焦点レーザー顕微鏡にて撮影
タンニン酸の皮ふにおける炎症発生の抑制効果
刺激物の代表として、汗(人工汗)による炎症(赤み)の発生がタンニン酸塗布により抑えられるか確認しました。
テープストリッピングにより皮ふを荒らした翌日にタンニン酸処理を行い、人工汗をかけて赤み(炎症)を起こしました。
今後の展望
様々な刺激により皮ふのバリアとなる角層はダメージを受けます。ダメージを受けた皮ふでは、汗などの様々な刺激が皮ふトラブルの原因となります。
今回、明らかとなったタンニン酸のプロテクト効果は、皮ふ表面において様々な刺激の浸入を抑える可能性がありますので、今後あらゆる肌トラブルに広く応用できることが期待されます。
- タンニン酸(成分)
- 皮ふの炎症(症状)
- 収れん・プロテクト(目的とする作用)
- 外部からの刺激物(原因)
パッチテストによる市販外用薬の皮ふ安全性の予測方法
研究の背景
薬局・ドラッグストア等では非常に多くの外用薬が市販されています。これら外用薬の安全性は、どのように確認されているかご存知でしょうか?皮ふへの刺激性は個人差が大きく、体調や食事などに影響を受けることもあります。そのため、実際に塗った時の安全性を予測するのは難しいです。
この安全性予測は人で評価されることが重要で、本来は実使用を想定して毎日塗り続ける試験(連続塗布試験)※1が望ましいです。しかし、数週間という長期にわたる試験になるため、被験者(試験の対象となる人)の負担が大きくなってしまいます。
そこで一般的には、簡便かつ短期間に皮ふ安全性を予測する方法として、ヒトクローズドパッチテスト(PT)※2が用いられています。しかし、個人差がある人の試験で毎回同じ結果が得られるのでしょうか?また、連続塗布試験とPTの予測結果に相関性があるかも不明だったため、これらを明らかにする研究を行いました。
毎日、同じ場所に外用薬を塗ることを想定して、腕などに試験品を連続で塗ってもらう試験方法です。塗ったところに皮ふ刺激症状(赤み、腫れ、痒みやヒリヒリなど)が起こらないか被験者に観察してもらい、皮ふ安全性を確認します。
本来は、アレルギー性のかぶれ(接触皮ふ炎)の原因物質を見つけ、病因除去による根本治療を行うための診断方法です(貼付時間は48時間)。
このPTを応用して、外用薬を塗った時の皮ふ刺激反応(赤みや腫れなど)を評価するのが一般的になっています。
研究の概要
①PTの再現性について
様々な背景をもつ被験者でPTを実施した場合でも、PT結果が同様になるのかを確認するため、2つの異なる被験者集団に対し、同じ試験品でPTを行いました。
②連続塗布試験の再現性について
PT同様に被験者集団を変えた場合でも、連続塗布試験結果は同様になるのかを確認するため、2つの異なる被験者集団に対し、同じ試験品で連続塗布試験を行いました。試験品は、PT結果(皮ふ刺激の強弱)が異なるものを使用しました。
③PTと連続塗布試験の関係性について
①②の結果を踏まえ、PTと連続塗布試験の関係性を解析し、PTが皮ふ安全性の予測手段として適しているのかを確認しました。
①PTの再現性
被験者は様々な背景をもつため、被験者集団が変わった場合でもPT結果に影響がない方法であるかを確認しました。併せて被験者の負担を減らすため貼付時間の検討も行いました。
- 2集団の背中に、市販外用薬を閉塞して24時間もしくは48時間貼付
- 試験品を取り除いた後、2時点で皮ふ刺激反応を観察してスコア付け(表2参考:0~6点で判定)
試験1 | 試験2 | |
---|---|---|
被験者の数 | 29人 | 30人 |
試験品 | 市販外用薬55品 | |
試験部位 | 背中 | |
貼付時間 | 24時間 | 48時間 |
判定時間 | (試験品除去後) 2時間および24時間 |
スコア | 皮ふ反応 |
---|---|
0 | 紅斑反応の全く認められないもの |
1 | 紅斑色調が薄く、わずかに認められるもの |
2 | 紅斑色調がスコア1より濃いもの (紅斑面積が試験品貼付範囲の50%以上) |
3 | 紅斑色調が濃くはっきりしたもの |
4 | 紅斑とともに、丘疹・浮腫を伴ったもの |
5 | 小水疱を伴ったもの |
6 | 大水疱、壊死など腐食反応と考えらえるもの |
2集団の皮ふ刺激スコアは、判定2時点で同程度となり、PTは再現性のある試験方法と考えられた。
また、試験品を貼る時間の違いによって、皮ふ刺激反応に差がなかった。
②連続塗布試験の再現性について
PT同様に、被験者集団が変わった場合でも連続塗布試験結果に影響がない方法であるかを確認しました。
また、PTは簡便に短期間で確認できる試験方法ではありますが、試験品を閉塞して貼るため、実際の使い方(開放的に塗る)とは異なります。そこで、実使用時を想定した連続塗布試験を実施し、発生する皮ふ症状を確認しました。なお、試験品はPTスコアが異なる6検体を用いました。
- 皮ふ刺激スコア:
皮ふ反応(乾燥、赤み、ぶつぶつ、腫れ)、
皮ふ感覚(ヒリヒリ、かゆみ、ほてり)
3:とてもある 2:ある 1:ややある 0:ない - 発症頻度:
スコアが付いた症状が発生した人の割合
試験3 | 試験4 | |
---|---|---|
被験者の数 | 22人 | 30人 |
試験品 | PTスコアの異なる市販外用薬6品 | |
試験部位 | 左右の腕の内側 | |
塗布回数 | 1日2回 | |
塗布期間 | 3週間 |
連続塗布試験の結果は2集団で同様であり、連続塗布試験の発症頻度は、PTスコアが高いものは高い頻度、PTスコアが低いものは低い頻度となった。
③PTと連続塗布試験の関係性
PTと連続塗布試験との関係性については、連続塗布試験を実施した試験品1~6と、それぞれのPT皮ふ刺激スコアとの相関性を確認しました。
6試験品のPT皮ふ刺激スコアと連続塗布試験の発症頻度には、正の相関関係が認められた(※相関関係は、PTの試験品除去2時間後スコアよりも24時間後でより高かった)。
よって、PTにより実使用を想定した連続塗布試験結果を予測できると考えられる。
研究のまとめ
- PTと、連続塗布試験は再現性のある試験方法であった。
- PTの貼付時間については、24時間と48時間で皮ふ刺激反応にほとんど差がなかったことから、被験者の負担を考え、24時間貼付による評価で問題ないと考えた。
- 連続塗布試験結果とPT皮ふ刺激スコアとの関係性から、実使用を想定した連続塗布試験同様に、PTは皮ふ安全性を予測する方法として有用であることが示された。
今後の展望
今回の研究により、PTは皮膚刺激性を予測する方法として有用であることが確認されました。私たちは外用薬メーカーとして製品の安全性をよりスピーディーに評価し、お客様が安心して使える製品を開発していきます。
- 市販外用剤(成分)
- 皮ふ刺激反応(症状)
- クローズドパッチテスト連続塗布試験(方法)
角層の分子構造や薬剤成分の皮ふ透過性におよぼすエタノールの影響
はじめに
皮ふには、「外部の刺激を侵入させない」、「体内からの水分蒸散を防ぐ」役割があります。
これらの役割は「バリア機能」といわれ、皮ふの中でも特に重要な働きを担っているのが最外層の『角層』です。そして、このバリア機能は「角層の構造」によって保持されています(イメージ図1)。
外用薬が効果を発揮するには、このようなバリア機能をもつ角層に薬剤成分を浸透させる必要があります(イメージ図2) 。
研究の背景
外用薬には様々な剤形がありますが、どのような剤形であっても薬効は、薬剤成分が皮ふに浸透することで初めて発揮されます(イメージ図2)。
外用薬の中でも液剤は、早く効きそうなイメージを有する剤形で、基剤にはエタノールが多く用いられています。また、エタノールは薬剤成分の皮ふ浸透性を促進することも古くから知られています。
しかし、その詳細なメカニズムは解明されていません。そこで、エタノールを皮ふに適用した際の薬剤成分の浸透性への影響を解析し、皮ふの最大のバリアである角層の構造への影響について研究を行いました。
研究の概要
①エタノールを適用した皮ふにおける、
水溶性化合物と脂溶性化合物の浸透性を比較検討
化合物の性質により、エタノールを適用した皮ふへの浸透性に違いがあるのか確認しました。
②皮ふにエタノールを適用したときの角層の構造の変化を放射光X線技術で解析
薬剤成分の皮ふ浸透における最大のバリアである角層が、エタノール処理により、どのような影響を受けているかを確認するため分子レベルで構造解析できる放射光X線の技術を用いました。
①エタノールを適用した皮ふにおける、水溶性化合物と脂溶性化合物の透過性を比較検討
水溶性化合物(FD-4)と脂溶性化合物(ISDN)のそれぞれにおいて、エタノール処理をした皮ふへの透過性を確認しました。
皮ふ透過性試験の結果から、分配と拡散のしやすさはそれぞれ係数として算出でき、両係数の積が大きいほど「透過性が高い」ことを示します。
- 化合物の性質によって、エタノールを適用した皮ふへの透過性に影響があるものと、ないものがあった。
- 皮ふ透過性に影響があった水溶性化合物においては、エタノールの濃度依存的な変化ではなく、透過しやすい濃度があることが確認された。
②皮ふにエタノールを適用したときの角層の構造の変化を放射光X線技術で解析
薬剤成分が皮ふを透過するにあたり、最も大きな関門となるのが皮ふ最外層にある角層です。エタノールが皮ふに適用されたときの角層の構造変化を詳細に解析できれば、エタノールが薬物の皮ふ透過性を変化させるメカニズム解明のきっかけになります。そこで、エタノールを適用した皮ふに放射光X線※1を照射し、角層の構造を確認しました。
- ※1 「SPring-8※2」にある世界最高性能の放射光X線を用いたことにより、皮ふ構造を分子レベルまで解析できました。
- ※2 SPring-8についてはこちら
角層の構造に及ぼすエタノールの影響
今回、放射光X線技術を利用した実験により、エタノールはラメラ構造(イメージ図4)に影響を与えることがわかりました。
さらに2種類のラメラ構造のうち、エタノールの影響は短周期ラメラ構造にのみ認められました。短周期ラメラは層の間に水分が存在するため、その水層に入り込んだエタノールがラメラ構造を変化させることが示唆されました(イメージ図5)。
また、ラメラ構造はエタノール濃度にしたがって一様に変化するのではなく、最も変化する濃度があることもわかりました(グラフ2)。
- 皮ふのエタノール適用において特徴的な影響を受けたのは角層(細胞間脂質)中の短周期ラメラ構造であった。
研究のまとめ
- 皮ふ透過性を促進するといわれるエタノールを適用した皮ふにおいて、水溶性化合物と脂溶性化合物の皮ふ透過性の促進傾向は異なりました。水溶性化合物においては、エタノール濃度によって皮ふ透過性が変化することが確認されました。
- 放射光X線による角層の構造の解析により、皮ふにエタノールを適用すると細胞間脂質中の水を保持しているタイプのラメラ構造が変化することと、そのラメラ構造の変化はエタノール濃度依存ではなく、最も変化させる濃度があることが確認されました。
本研究により、エタノールを適用した皮ふにおける水溶性化合物の皮ふ透過性の変化には、水溶性化合物が透過する角層の構造の変化によって、皮ふへの分配性が変化することが大きく関わっていると考えられました。
今後の展望
エタノールは、液体の外用薬から化粧品、消毒など、幅広い用途で皮ふに使われる成分です。どのような症状に、どのような成分を、どこで効かせたいのかをふまえた処方を設計するには、エタノールの皮ふへの影響を理解することが重要です。
特に本研究で得られたエタノール適用による、皮ふ透過性の変化や皮ふバリア構造変化の関係についての知見は、更なる技術発展のきっかけとなる情報と考えます。
さらに、今後の外用剤の開発において、有効性と安全性のバランスを考える情報としても活用していきます。
- 皮ふ透過性
- エタノール
- 角層の構造(ラメラ構造)
- 放射光X線